礼拝堂には不思議な空気が漂っている。頭の上から神様にいつも見つめられているような気がするから不思議だ。だから姿勢を正し、大声を出さず儀式として時の過ぎゆくまま身を任せている。

大手町にある美代子の職場までは、いつも東京駅北口で下車して七、八分歩く、丁度朝の適当な散歩みたいで別に苦にならない。秋の気配が日ごとに深まってくる朝の通勤時間は空気が少し冷たい。

大手町ビルには外資系の会社や石油会社、保険会社等有名企業がテナントとしてどんと構えている。美代子の会社も歴史が古く明治時代の後半から海運業としてヨーロッパとアジアの海運航路で輸出入の貨物を扱ってきた。

美代子の仕事は学生時代に培った英語を生かした船荷証券を荷主に発行する仕事で、書類は英語で記載されているので語学の力が試される。更に大きな貨物船が日本に寄港する時は乗務員の世話等、手伝うこともあり結構忙しい。

今思い出すのもつらいが二十七歳の時、同じ職場で働く安西健吾と恋愛し、二年間続いた。

※本記事は、2020年11月刊行の書籍『揺れ動く女の「打算の行方」』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。