魔境乃姫

「ジュー」と肉が焼ける音と異臭が巫女の寝室に漂い始めた。劣勢になったのは魔界のものだった。

光が触手の皮膚を浸透するように覆うと、触手を形作る赤黒い肉の塊、どす黒い血、青みがかった体液共々蒸発し浄化された。触手そのものが完全に消えさり、触手の本体は地中深く逃げ去って行った。

後には先程の巫女が横たわっていた。黄金色に輝く者は、巫女の着ていた寝間着を脱がせると、血と体液で濡れた布団を取り去り、板の間に寝かせた。

触手は浄化されたと言っても、巫女の身体の三分の一程度は、赤黒く欝積(うっせき)した痕が、白い肌に縄模様として残っていた。死んでいるのか、生きているのか分からない。

全身が黄金色に輝く者は、自身の纏っていた装束を脱ぐと、横たわる巫女同様に全裸になった。いとおしそうに巫女の顔から髪の毛と身体を指で撫でた。しばらくそうしていたが、横たわる巫女の身体に自身の身体を重ねた。そして、静かに巫女の身体に浸透していった。

浸透してしばらくすると黄金色の光は静かに消えた。そして年月が流れた……。

今夜は満月の夜である。銀色の髪を肩まで伸ばし、白狐の半面で額と目と鼻を隠した巫女は、口角を少し上げた。微笑んでいるのだろうか?

満天の夜空に輝く月を見上げると静かに巫女装束の上半身を脱いだ。年齢は読み取れないが、その身体は白く憂(うれ)いを持っていた。