ほとんど表情を崩さず、事務的に話をした。宅配便の荷物を渡すくらいにも見える。ほんの気持ちはどうも袋の中身だけで終わりのようだ。僕の妙な熱も冷めてくる。

「ほんなら……ありがと……」

と真顔で受け取った。春田はその一連の作業が終わると、じゃあ、といって階段教室の前の方に下りていった。僕が呆然と、芯の強そうな彼女の後ろ姿を眺めていると、隣に座っていた内村がいたずらを見つけた子供みたいに目を輝かせながらズリズリと体を寄せてきた。

「なになに? どうしたんよ?」

「いや、ちょっと手伝っただけよ」

詳しく話すのが面倒くさいとは思った。それに助けたなんていうと尊大だし、かつて記憶にないあの行動を口にするのもどこか気恥ずかしい。それにいつも颯爽としている春田の印象を損ねるようなこともしたくない。また適当に話したといってもうそではない。

「手伝い? 沢ちゃんもう春田さんとちょっといい感じになってきてる? ええなあ、春田さんめっちゃきれいやし、スタイル完璧やし。ちょっときつそうやけど」

「アホ、なるか」

と言い捨てたが、わずかな期待には気づかされてしまった。もっともこの手の期待は過去何十回もあるけれど。しかしこいつはそういう思考回路か。昨日内村が

「女の子の好みは? クラスで言うとどの子?」

と訊いてきたので、

「穏やかな、優しそうな、可愛い人が好みや」

と言ったばかりだ。もちろん誰とは言わなかった。春田恵美は確かにクラスでもひときわ美人だけど、シャープ、スマート、クールという言葉がピッタリな印象なのだ。悪い言い方をすれば、きれる、きつい、こわい。そりゃまだよく知らないからほぼ見た目なんだけど。

いかんせん僕には恐れ多かった。袋の中身は、焼き菓子かなにかだろう。やたら甘く香ばしい匂いが立ち込める。中身も気になるが、奇妙な形で授業を盛り上げている気がして、終わるまで落ち着かなかった。

※本記事は、2020年11月刊行の書籍『桜舞う春に、きみと歩く』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。