大丈夫。いつか春がやってくるから
第一志望の大学で充実した日々を送る沢波俊樹。
サークルで出会った、一見クールでひときわ美人な春田恵美と、高校時代からの友人で気心の知れた木下和との間で揺れ動く心。
そんな彼に、恐ろしい病魔が迫っていた――。
青春のときめき、切なさ、葛藤、温かさを爽やかに描いた、感動の純愛小説を連載でお届けします。
翌日の一時限目。大学の大人数の授業では、階段教室になることもある。ちょっとした体育館ほどもありそうな教室の後方に僕は指定席のごとく陣取っていた。目はそれほど良くないので、あまり後ろだと見づらいけれど、前の方で熱心に授業を聞いて雰囲気を盛り上げるタイプでもない。むしろ後ろで密かに授業の邪魔をしないように、ときには居眠りの一つもできる席を好む。
僕の隣では内村がそのでかい指で熱心にチコチコとスマートフォンをいじっていた。
「沢波くん、ちょっといい?」
授業前のまったく無防備な背後から不意にかけられた声に慌てて振り返る。そこには凛とした雰囲気の春田恵美がなぜか冷ややかな目で見下ろしていた。僕は彼女に何か悪いことをしたのではないかと、自分の胸に過去の所業を問いかけてしまう。とはいえ暖かくなってきたからか、薄手のシャツに明るめのジャケットを羽織っている春田は、いつもからすると目を合わせやすい。
僕はちょいとあごを突き出して会釈した。
「昨日のお礼」
春田が唐突に紙袋を突き出した。茶色いマチ付きの手提げ袋。
(は?)
思わぬ事態に、にわかに頭が回らない。すっと息を吸い記憶を覚醒させる。
「あ、ああ……そんなんいいのに」
少し体をのけぞらせながら、両手を上げて断る。僕としてはたいしたことをしたつもりはない。自転車を引き起こすのはもちろん、逆に傷の処置なんて押し付けがましかったかもと思うくらいだ。というかそっちの気持ちのほうがはるかに強い。
そんなわざわざ僕なんかにお礼なんて、と思っていると、
「本当に助かった。ほんの気持ちだからもらっといて」
★邪気指数、新陳代謝指数、正気指数
漢方の立場で見た、主人公沢波俊樹の体調を示します。本来、漢方にはこんな指数はありませんが、これに近いことをもっと細かく考えながら対処します。これらの変化は人によって異なります。
●邪気指数
体の中に溜まった不要なもの(邪気)の量を示す指数です。邪気は誰の体の中にもあります。食事の質や偏り、嗜好品、食べる時間などで変化しやすく、新陳代謝指数が下がり排出が悪くなることでも上昇します。邪気がかゆみの元にもなることがあります。ここでは50~150を正常範囲とします。150を超えると体調を崩しやすくなります。ただし、正気指数が高い方は、邪気指数が高くなっても体調を維持することができます。
●新陳代謝指数
体の中の、良い物(正気)、悪い物(邪気)がどれだけスムーズに動いているかを示す指数です。通常人が生きていく中で、良い物(新)を取り入れて、いらないもの(陳)を排出しています。それがスムーズに動いていること(代謝)が大切です。飲食の消化吸収、大小便での排出、血流、発汗などトータルの指数とします。運動不足やストレスなどで低下します。ここでは70~100を正常範囲とします。新陳代謝指数が下がると邪気指数が上がりやすくなり、下がっているときには正気指数も下がっていることが多くなります。
●正気指
数
体の元気(エネルギー≒正気)の指数です。バランスの良い飲食で満たされ、ほど良い休息をとることで作られます。逆にストレスや過労で低下します。正気が少なくなると、体のだるさや意欲の低下がみられ、免疫をコントロールする力が弱り、かゆみを抑えられなくなり、症状が悪化します。ここでは70~100を正常範囲とします。正気指数が高いと新陳代謝指数は上がりやすく、邪気指数が少々高くても生活に支障はありません。