大丈夫。いつか春がやってくるから
第一志望の大学で充実した日々を送る沢波俊樹。
サークルで出会った、一見クールでひときわ美人な春田恵美と、高校時代からの友人で気心の知れた木下和との間で揺れ動く心。
そんな彼に、恐ろしい病魔が迫っていた――。
青春のときめき、切なさ、葛藤、温かさを爽やかに描いた、感動の純愛小説を連載でお届けします。
春の出会い(邪気:90 代謝:80 正気:80)
「ちょっとましになった?」
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ものの三分ほどの手当の後、使い終わった清浄綿や絆創膏のフィルムなんかをざっとビニール袋に突っ込む。
「……うん」
僕が顔を上げると、彼女の眉間のしわが消えていて、いつもの落ち着いた表情に戻っていた。そして何かに急かされたように、バッグに手を入れた。
「あ、薬代、いくらだった?」
「ああ、どうせ買おうと思ってたもんやからいいよ」
「いやそうはいっても」、「いいから」、などとしばらくやり取りを繰り返してなんとか納得してもらった。実はとっさに手当に動いてしまったものの、冷静になると、絶対お金などもらいたくないという気になっていた。
というのも、手当してほしいという気持ちもきちんと確かめず、自分が勝手に選んだ薬を使ったし、成り行き上お願いと言っただけで本当は迷惑だったかもしれない。駐輪場に春田の自転車を預け、駅の地上入り口まで歩く。この駅は学生が利用することが多いためか、この時間になると閑散としていた。
南北に流れる川のそば、それに並行して走る通りに面していて、春風の通り道にもなっているのか、強く体が揺らされる。隣に並んで立つ春田の長い黒髪も千々に乱れる。
「ありがとう、助かった」
髪をかき上げながら振り向いた彼女は、教室やテニスコートで見かける冷たくすました様子もなく、口元に穏やかな笑みをたたえていた。初めて見聞きするその声と姿にドキリと胸が高鳴る。じゃあね、と言って彼女は地下のホームにつながる階段を下りていった。
その後ろ姿を見ながら、自分のしたことは悪いことじゃなかったかな、と少しだけ胸をなでおろした。
★邪気指数、新陳代謝指数、正気指数
漢方の立場で見た、主人公沢波俊樹の体調を示します。本来、漢方にはこんな指数はありませんが、これに近いことをもっと細かく考えながら対処します。これらの変化は人によって異なります。
●邪気指数
体の中に溜まった不要なもの(邪気)の量を示す指数です。邪気は誰の体の中にもあります。食事の質や偏り、嗜好品、食べる時間などで変化しやすく、新陳代謝指数が下がり排出が悪くなることでも上昇します。邪気がかゆみの元にもなることがあります。ここでは50~150を正常範囲とします。150を超えると体調を崩しやすくなります。ただし、正気指数が高い方は、邪気指数が高くなっても体調を維持することができます。
●新陳代謝指数
体の中の、良い物(正気)、悪い物(邪気)がどれだけスムーズに動いているかを示す指数です。通常人が生きていく中で、良い物(新)を取り入れて、いらないもの(陳)を排出しています。それがスムーズに動いていること(代謝)が大切です。飲食の消化吸収、大小便での排出、血流、発汗などトータルの指数とします。運動不足やストレスなどで低下します。ここでは70~100を正常範囲とします。新陳代謝指数が下がると邪気指数が上がりやすくなり、下がっているときには正気指数も下がっていることが多くなります。
●正気指
数
体の元気(エネルギー≒正気)の指数です。バランスの良い飲食で満たされ、ほど良い休息をとることで作られます。逆にストレスや過労で低下します。正気が少なくなると、体のだるさや意欲の低下がみられ、免疫をコントロールする力が弱り、かゆみを抑えられなくなり、症状が悪化します。ここでは70~100を正常範囲とします。正気指数が高いと新陳代謝指数は上がりやすく、邪気指数が少々高くても生活に支障はありません。