「脳梗塞・認知症・運動器症候群(ロコモ)」​三大疾患、2人の医学博士が徹底解説。高齢者が自立して健やかな老後を送るためのノウハウ満載。医療従事者だけでなく、介護・福祉関係者も活用できる知識をお届けします。

第3章 認知症の治療

認知症は、早期診断と早期治療が鉄則です。これらにより治療効果が期待でき、効果も長く続き、海馬などの脳萎縮の進行も遅らせることができます。認知症をどのように治療するのか?

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病気一般に通ずることで、どのような場合でも早期診断、早期治療が望ましいのですが、認知症の多くは加齢に伴って症状が出現するため、認知症の早期の症状を加齢に基づく症状と区別することが困難です。したがって、認知症の早期診断は見極めが難しいのが現状です。認知症患者さんの診察の要点は、次のようになります。

・患者さんの話を辛抱強く聴く。時間を要し、繰り返しや理解困難なことも多い。しかし、診断に役立ち、治療にも有用な情報を多く含んでいる。

・介護者の話を聴く。本人と介護者の言うことが異なる場合もある。たいてい、家族の方が正しいが、逆のこともある。

・患者さんの不安、抑うつ、焦燥、多幸の表情を観察する。落ち着きのなさ、無関心、依存の有無を診る。依存とは医師の質問に対して介護者に助けを求めることである。介護者の態度、具体的には患者に対する叱責、甘やかし、無関心などを認識することがケアを進める上で重要である。

・一般的診察として、脈拍、血圧など全身状態を知る。全身疾患に伴う認知症の鑑別、薬物治療の副作用出現の危険度予知、高齢者に現れる種々の疾患への対処の参考になる。

・神経所見の正確な把握は種々の認知症鑑別診断上重要である。眼球運動障害、歩行障害、構語障害、感覚障害なども手掛かりになる。

認知症の多くは脳の加齢を基とする変性疾患ですから、治癒は期待できません。そこで、薬物治療の主な目的は、その進行を遅らせることになります。したがって、治療では、薬により進行を遅らせると同時に、介護を主体とする非薬物療法を併せて症状の改善を目指します。