第11話 日本の未来、浦シマの未来

「あと何分だ」

広い部屋はシマとTENCHIだけになった。

「私のデータが確かなら後5分後に原子爆弾が広島に投下されます」

「涼子……遠くに行ったかな」

シマは白衣のまま足を組み椅子に座る。

「TENCHI、お前は時空を彷徨う海亀ロボットなんだろ、何が目的か分からんが……この時代の調査か?」

シマは人生最期になるであろう煙草に火をともした。応えないTENCHIに。

「もう、何もかもいいか……」

シマはぽつりと呟き、昨日からの疲労からか目がうつろになる。部屋の小窓からは必死に鳴いている一匹の蝉が見えた。大量破壊兵器はすべての生き物……地球をも焼き尽くす……

「先輩、あれ……」

誰かがシマの肩を叩く。シマが振り向くと、行ったはずの涼子が立っていた。アツシが背後から睡眠薬を練り込んだハンカチでシマの口を覆う。

「うぐっ……」

「先輩悪いですが、この基地には何でも揃っているんですよ」

涼子は寂しげな眼でニコリと微笑んだ。

「アツシ、早く、この中に入れて」

涼子の命令に、アツシは気絶したシマの体をボディスーツに入れ、ゴーグルを顔にかけ口に酸素ボンベをあてがう。そして背中のジッパーを閉めた。

「完了だ。TENCHI、後は頼むわよ」

「分かった……」

地面から浮いたTENCHIの甲羅の上に二人がかりでシマを乗せる。気を失っているシマは甲羅に静かに寝そべる。2人の頬に涙がゆっくり伝う。

「上等兵は、これからの日本に必要な方です」

「先輩、今度は、この日本の……みんなを幸せにそして笑顔にさせてください。平和な世界、絶対、絶対、頼みましたよ」

アツシ、涼子は最期になるであろう送別の言葉を送った。

「敬礼!」

二人は顔を上げ敬礼をした。

※本記事は、2020年11月刊行の書籍『浦シマかぐや花咲か URA-SHIMA KAGU-YA HANA-SAKA』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。