「ドイツ軍でもない、アメリカ軍でもない……TENCHIは現在の科学では説明できない構造をしている。また、日本語も喋れるし歴史にも詳しい、宇宙からは来たような様子もない。だとしたら、TENにCHI、お前は未来から来たとしか考えられない」

「助けてもらったお礼に、あなた方を救いたいのですが」

TENCHIは赤い目を光らせた。

「救えるのは、残念ながら1人だけです……」

ブーーン、TENCHIはホバークラフトのように床から浮き上がった。

「浮、浮いた……」

涼子は両手を広げて驚く。

「そのボディスーツを着て、わたしの甲羅の上に乗ってください」

「そうか、1人だけか……『特別強化戦闘服甲号』の試作品は一式しかないからな」

シマは煙草に火をつけ、どかっと椅子に座った。白衣のポケットからメモを取り出し、2枚に破り、紙こよ縒りにする。そのうちの1枚をこれもポケットに持っていた口紅で下の方を赤く塗った。

「さあ、くじ引きで決めるぞ。下の赤い紙縒りを引いた者がTENCHIと一緒に未来に行け。外れた方は出来るだけ広島から遠くに離れろ」

「わたしは、最期までこの基地に残る」

シマの左手には自爆装置のスイッチが見える。

「そ、そんな……」

二人は呟いた。

「笑えよ。確率の問題だ。TENCHIに乗って新しい未来に行くのが一番助かる可能性が高いと思う」

「早く引け、これは命令だ」

右手を差し出す。おそるおそる2人は震える手で引く。赤い紙縒りを引いたのは鈴木アツシ二等兵であった。顔は涙でくしゃくしゃになっていた。

「涼子は、準備出来次第、すぐにこの基地を離れろ、少しでも遠くに行くんだ」

「先輩、いや浦上等兵、分かりました。準備出来次第、ここを離れます」

涼子も涙をこらえながら必死で敬礼をする。

「それと、アツシは早くスーツにガスを入れろ。酸素ボンベは1時間持つからな」