* * *

「――なんだ、君か」

「なんだとはなんだ」

「君が来ると何か良くないことが起こりそうな気がするのだよ」

実際学生時代には何度も何度も面倒事に巻き込まれているしね、と笑いながら告げる友人に返す言葉もなく、彼の後について中へと入った。相変わらず客足はないようで、閑古鳥が鳴いている店内を抜けて居間へと向かう。そして居間へと着くと、すすめられるがままに、薄い煎餅のような座布団に腰をおろした。

少し古風なしゃべり方をする友人――友人は私のことをただの知り合いだと言い張るが――は私を一瞥すると読んでいた本を閉じて奥の方へと引っ込んだ。

「珍しいな。君がすすんで茶を煎れてくれるなんて」

「今日は千華(ちか)がいないのだ」

「とうとう愛想尽かされたか」

「馬鹿なことを言うなよ。紗智(さち)を連れて実家に顔を見せに行っているだけだ」

「そうか」

私が茶を飲みながら茶化すと友人は不機嫌そうにムッと顔を顰(しか)めた。友人の煎れた茶はぬるい上に薄かった。いつも友人の細君が煎れてくれる茶とは似ても似つかぬ味だ。正直、お世辞にも旨いとは言い難い。


 

※本記事は、2020年12月刊行の書籍『水蜜桃の花雫』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。