一発屋作家が再び筆を執る――。
作家の吉川は、過去に少しばかり本が売れて以来スランプに悩んでいた。
友人たちの助言をきっかけに、再び筆を執った吉川。彼が紡いだ物語とは……。
ベストセラーが生み出される過程を楽しめる小説を連載にてお届けします。
途方に暮れる私が訪ねた友人とは...
歳のせいにしてしまえばそれまでだが、頑固な気質が私を踏みとどまらせてしまうのだ。そのうちまた新しいものが出るらしいが私には全く関係のないことだ。
それは中学時代からの付き合いがある古書店を営む友人にも言えることだろう。私とこの友人は死ぬまでアナログ派を貫くかもしれない。友人は私と違って頭も良いから手元にあれば使いこなすことも訳ないだろうが。
同じく中学時代からの友人でベンチャー企業を立ち上げた友人は新しいものには目がない。おまけに頭も良い。何度かオフィスを訪ねたことがあるが、必ず最新式の機器が揃っていた。恐らく今度出るウィンドウズエイトとかいうものも買うのだろう。
「はあ、うまくはいかないものだな」
いっそのこと自伝をモチーフにファンタジーっぽく仕上げてみようか。ふとそんな考えが頭を過(よぎ)る。
――そんなことができるわけがない。
私はこれ以上自分で考えるのが嫌になって原稿を放り出した。このままうだうだと考え続けていると何か自分じゃない別のものになってしまいそうな気がしたからだ。
「あいつの所にでも行くか」
気分転換も兼ねて、私は久方ぶりに古書店を営む友人を訪ねようと重い腰をあげて家を出た。
登場人物
吉川(きっかわ) 小説家 「私」
御巫(みかげ) 古書店を経営 博学
由津(ゆいづき)木 俳優 時代物を得意とする
港(みなと) ベンチャー企業を一代で築き上げた凄腕
都竹(つづき) 警視正
《水蜜桃の花雫》
お幸(ゆき) 近江屋の主人の孫娘 跡取りとして育てられる
藤七郎(ふじしちろう) 近江屋へ奉公に来た青年
与七(よしち) 近江屋の主人
お吉(よし) 近江屋の女将
佐助(さすけ) 近江屋の番頭
お菊(きく) 近江屋へ引き取られた元舞妓
お弓(ゆみ) とある農村の大地主の娘 近江屋へと嫁ぐが双子を生んだため離縁される
《薔薇の花影に約束を込めて》
高峰(たかみね) 倫也(みちなり) 日本帝国海軍中尉 元華族
美波(みなみ) 百合子(ゆりこ) 倶楽部〈青い満月〉で雇われている踊り子
四条(しじょう) 倫也の上司
信濃(しなの) 〈青い満月〉のボーイ
美波(みなみ)博理(ひろみち) 百合子の兄
美波(みなみ)直哉(なおや) 百合子の父
高峰(たかみね)善造(ぜんぞう) 倫也の父