京都御所から蛸薬師

京都御所の一般公開は、春秋の二回であったと記憶していたが、いつの間にか通年で公開するようになったらしい。

二条城に比べると、質素で地味な印象は拭えないのだが、それでも外国人観光客が団体で訪れている。御所内の砂利道を彼らがゾロゾロ歩く。大量の砂埃を巻き上げ、それを春風が優しく拡散する。あたかも春霞がかかったような情緒ある意外な風景が現出。僕は、喉がいがらっぽくなりながら苦笑した。

テロの警戒からか、入口でのチェックが厳しい。鞄の中まで子細に改められた。鞄の中には、飲みかけのお茶のペットボトルあり。警備員がペットボトルの中身をしげしげと見ている。僕は人相が悪いから、致死性の高い化学物質を持ち込もうとするテロリストのように疑われている。ハラハラしたものの、拘束されることなく、無事に通過できた。

大学時代、僕は数度、御所の見学をしているのだが、女房は初めてである。国文学専攻の実力を見たまえとばかりに、平安文学の話も交えて、宮廷での貴族の暮らしぶりの解説をしたが、さして興味もなさそうであった。やんぬるかな。

紫宸殿の前庭には、皺だらけのTシャツ、脛毛むき出しの半ズボン、便所スリッパみたいな履物の外国人バックパッカーが結構な数いる。かつての聖域を気軽過ぎる格好で外国人旅行者が気ままに歩き回る。このような時代が来るとは、平安貴族には想像すらできなかっただろう。

この様子を清少納言が見たら、なんと書くのだろう。やはり「見苦しきもの」に分類して、辛辣な言葉を綴るのか。読んでみたくなった。

お昼になった。本日は、丼物の老舗で衣笠丼を食べるのを楽しみにしてきた。

衣笠丼は、京都では定番の丼で、親子丼の鶏肉の代わりに「おあげ」が入っている。高脂血症の僕には、うってつけの丼なのだ。

京都は、東西南北の方位さえ分かれば、行き着けない所はないと女房に豪語したものの、さっぱり店に行き着かない。目印の烏丸通から一本東寄りの車屋町通沿いにあるはずだが…。

今日は、地磁気の異常で僕の方向感覚が狂っていると苦しい言い訳をして、女房にスマホで現在地を確認してもらったところ、店とは逆方向に突き進んでいた。逆に女房に道案内をしてもらう体たらくぶりに、会話も途切れがち。

とにかく件の老舗に辿り着いた。

三十人以上が列をなしている。

予想外の事態に、早々に断念して、他の店を探すことに。

「どこでもいいよ」という女房の顔色を窺いつつ、早く良い店が見つかりますようにと、厚かましく学問を担当する神様の道真公に祈る。