また末期がんの患者さんの緩和ケアが自宅でできることも大きな魅力でした。麻酔科医として集中治療室や病棟内での孤独な死を見てきた私は、「自宅での死」というものの重要性に気づき始めていました。

かくして私は麻酔科医を辞め、二〇〇五年春からたんぽぽクリニックの一員となりました。たんぽぽクリニックは二〇〇〇年に四国で最初の在宅医療専門クリニックとして開業していました。

二〇二〇年六月現在、常勤医師七名、非常勤医師四名、看護師二八名、リハビリテーション職員(理学療法士、作業療法士、言語聴覚士)、ケアマネジャー、ヘルパー、鍼灸マッサージ師、管理栄養士、調理員、医療ソーシャルワーカー、事務職員を含めて総勢約百名のスタッフを有する大きな組織になっています。また愛媛県西予市において、へき地の診療所運営も行っています。

現在約六〇〇名の患者さんの在宅診療を担い、年間一五〇例以上の看取りにかかわっています。病気でもわが家で過ごしたい。がんを患っても最期までわが家で過ごしたい。このニーズを満たすことが私たちの最大の目的です。

在宅療養に踏み切りたいが、家族の負担を考えると心配……。在宅では緊急時にすぐに対応してくれるのか……。この二点が在宅療養のハードルを非常に高いものにしています。これらに対し、たんぽぽクリニックでは前述の当院多職種職員の活用や地域の訪問看護ステーションなどの社会資源と密に連携することによって、患者家族の負担を軽減し、二四時間、三六五日の緊急対応システムを構築し、患者さんやその家族に安心していただいています。

本書で紹介させていただいた患者さんたちは、たんぽぽクリニックのこうした取り組みの中で、私が経験した方々をピックアップしました。私たちの取り組みをより多くの人々に知っていただければ幸いです。

※本記事は、2021年1月刊行の書籍『生きること 終うこと 寄り添うこと』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。