Hustlin’(ハスリン:違法ビジネス)

125丁目にたくさん立ち並ぶ露店も、いまや観光名物の一つのように思える。そこで、しばしば見かけるのがCDを$5.00ぐらいで安く売っている人たちだ。

これらのCDは違法にコピーされたもの。通常CDは$14.00から$16.00ぐらいの値段で市販では売られている。ある日のことだ。相変わらず多くの若者がシートを広げ、海賊版CDを安く売りさばいていた。非常に見慣れた光景なので、私は特別気にも留めていなかったのだが、その日に限って通りを歩いていた一人の男性が突然、「ポリ公だ」と彼らに合図を送った。

その瞬間、彼らはCDを素早くかき集め、シートにくるみ、その場をあっという間に駆け足で立ち去った。一人の男性の忠告により、「ポリ公だ」という言葉はものすごい早さで125丁目をかけめぐり、「即、撤収」という連絡事項が伝達されていったのだった。もちろん、すぐそばまでNYPD(ニューヨーク市警)が来ているにもかかわらず、大きな声で「ポリ公だ」と叫ぶわけにはいかない。こういう状況では必ず隠語が使われる。

“Heyyo! Popo! (オイ、おまえら! ポリ公だ!)”

その男性は、自分の声がストリートに響くように、口を手で囲いながら注意を促したのだ。数分後、NYPDがやって来た。いま、まさにここで違法な商売が行われていたことなど露知らず、NYPDは125丁目をゆっくりと歩いていく。誰の許可も得ずにストリートの一部を陣取り、即興で行われた違法商売。

彼らは証拠一つ残さなかった。何事もなかったように125丁目のストリートはいつもの賑わいを見せている。今回のように万が一、すぐにでもその場から逃げ出さなければならないようなとき、なるほど、商品をシートにくるめば、余計な手間はかからず、そのまま楽に持ち去ることができる。まさにストリートの知恵とも言うべきか。

一見、賑やかで、活気に満ちている125丁目の風景は、「犯罪は姿を消したのか」と私たちを錯覚させてしまう。だが、観光客や警官たちの目を盗み、Hustlin’(ハスリン:違法ビジネス)は行われている。ある意味、それがストリートの文化であると同時に、ハーレムの日常の風景を構成している重要な要素にもなっているのではないかと私は思うのだ。