「邂逅」10歳から11歳:運命の出会い 5

横浜の翼の家の近くにある生鮮食品を中心とした営業をしているスーパー。そこで店の制服を着てレジ打ちをしている三枝子。交代の人が来てロッカーの方へ向かう。途中でパートのチーフに廃棄する弁当を4つもらう三枝子。

「いつもすいません」

と頭を下げる三枝子。

「いいのよ、気にしないで」

翼の家は、2階建ての木造の古い家で、横浜の少し山の上にある。居間のキッチンテーブルに翼、三枝子と勝が座っている。勝は痩せていて背は高い。眼鏡をしていていかにも公務員という真面目さがにじみ出ている。三枝子の優しさに包まれた感じの一家である。翼の2歳下の弟の涼介はテレビでゲームをしている。

「私は反対だ。スケートはお金もかかるし、送り迎えなどで家庭がめちゃくちゃになるぞ」

「私もそれは不安。翼はどうなの?やるとなったら早起きしないといけないし、好きなテレビも見られないし、ゲームもあまり出来なくなるのよ」

「それでもやりたい。早起きもする」ときっぱり言う。

「その四ノ宮さんが無料で教えるというのも信じられないな」

と首をひねる勝。

「それは会った時に直接訊けばいいじゃない」

と三枝子。

「そんなに翼に才能があるというのか。私もお前もスケートなんてまともにやったことがないだろ」

「翼はなんでスケートを習いたいの?」

「うまくなりたい。もっと難しいジャンプを跳んでみたい」

「そうなのね」翼の顔を見てやらせたくなってきた三枝子。

「それでも私は反対だ」

「わかったわ。それでも四ノ宮さんには一緒に会ってね」

「わかった」

三枝子は、翼の顔をじっと見つめて決意を固める。

※本記事は、2020年12月刊行の書籍『氷彗星のカルテット』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。