父の会社が倒産、そして…

「実は……父のお店が倒産したの」

沙希の実家は老舗の和菓子屋で、手広く店を展開している。先々は沙希の兄が継ぐ予定だと聞いていた。

「すぐに路頭に迷うというわけではないのだけれど、いろいろ後始末が大変で。でも心配しないで。ある程度の蓄えはあるから。研ちゃんは創作に専念して」

「そういうわけには」

沙希といっしょになってから、これまでいかに自分が彼女に頼り切っていたのか改めて思い知らされる。それに甘えていたつもりはなかったが、結局は何も成し得ていない自分が情けなかった。

「沙希。これまで支えられるばかりで何もしてやれなかった。すまない。これからは俺が支える番だ。いくつかの出版社で顔がきくところもあるし、なんとか仕事をとってくるよ。こだわりを捨てて、なんでも書く気ならどうにかなると思う」

顔がきく出版社と口にはしたが、思い浮かぶのは葭葉出版の島崎以外にはいない。

「研ちゃん。わたし、いざとなったらパートでも保険の外交でもなんでもする。だから研ちゃんは夢を諦めないで」

熱いものが瞬またたく間にこみ上げ、思わず沙希を抱きしめると、冷たいものが沙希の頬を伝っている。沙希と雫、この、かけがえのない存在をなんとしても守らねば。何がなんでも……。

※本記事は、2020年9月刊行の書籍『流行作家』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。