「織田さん、この前改良エンジンの実験をお見せしましたよね」

織田は相槌を打ちながら

「あのときはものすごい勢いで炎と白煙が出てびっくりしました。燃焼率を上げるために、エンジンの中の気流回転をよくして排煙を効率的に出させる実験でしたね」

「そうです。あの実験でエンジン内の羽の位置を変えてミクロの水泡を投入したら20%程度燃焼効率が良くなったのですが、今度は排煙をもっと効率的にできるように出口の部分を出力によって可動式にするように変えてみました。そうしたらそれだけで5%もエンジンの性能が上がったんです」

「そうですか、それではいよいよ実用化できる性能になったんですね」「いえ、私としてはもう少し燃焼効率を上げたいんです。燃焼効率が上がればその分機体を軽くでき、荷物を多く運ぶことができます」

「伊藤さんにお願いしてある、燃焼効率最適化ソフトができ上がってくれば、もう一段良いエンジンができると思います。伊藤さんが頼りですよ」

そこに主治医である本多が退院前最後の診察に来た。堀内と伊藤は診察が始まるので部屋の隅の方に席を移した。織田が不安そうに、

「本多先生、私の病気は再発することはないでしょうか?そして以前のようにきちんと思考できるようになるのでしょうかね」

「織田さん、大丈夫ですよ、後遺症は全く出ていませんから、これからの生活も全く問題ないですけど、ご高齢ですので再発のリスクもあります。服薬を怠らず定期検査は欠かさず受けてください」

親しくなった織田が診察中の本多に、

「本多先生、私は事業に成功して今では世界屈指の資産家になりました。しかし、人の寿命はどんなに財産があっても買うことはできません。1年1億円でいいから、若い身体を買うことはできないものですかね」

と、冗談まじりで言う。