『そうか? それでは仕方がない。では、まずこれを返してもらおうか』

そう言って私は一枚の紙をピエトロに見せた。私の方も何とか店を建て直さねばと必死だったんだ。

『これは何だ? 何、百二十万リラだと!』

『私がこれまでお前さんにつぎ込んだお金だよ。もしどうしてもこの話が嫌だとほざくなら、このお金、返してもらおうじゃあないか。今すぐ耳を揃えてな。あんたの芽がちっとも出ないため、ギャラリー・エステも左前なんだ!』

『うーん、それとこれとは違う。卑怯だぞ、コジモ!』

『まあ、どちらにするかアンナさんとも話し合いたまえ。いいかね、はっきり言わせてもらおう。下の子のユーレだ。彼女をヴォーンさんに差し出すことを了承しろ。そうすれば全てがうまくいくし俺も助かる。ただし、一つ条件がある。このことは永遠の秘密だ。お互いに会いに行くことはまかりならぬ。また親だと名乗ってもならぬ。幸い、お前はよそ者だし、アトリエは野山の中の一軒家。人付き合いもないし、双子の娘の存在も知られてない』

『コジモ、お前は鬼か、さもなくば悪魔だ!』

フェラーラは興奮して今にも私に飛びかからんばかりだった。

※本記事は、2020年8月刊行の書籍『緋色を背景にする女の肖像』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。