迫りくるタイムリミットの日

母・明純からサクラ遭難のメッセージが届いたのは水曜日の朝だった。「岬家」という父母と三人の息子・ヒョウゴ・イオリ・サクラの五人のメッセージグループがあり、「昨日、サクラが武蔵山脈に登山に行って帰らない。今日から捜索が始まる」との短い連絡が入った。

ヒョウゴは岬家の長男だが、東京の大学に進学し、そのまま東京でプログラマーとして就職した。卒業した年に瑠布乃と結婚。すぐに息子・蒼輔を授かり、今は娘・霞音と、二人の父親になった。次男・イオリはヒョウゴを追うように東京の大学を受験し、医学部に進学した。インターン時代に知り合った検査技師の晶那(しょうな)と結婚し、今では四歳と二歳の息子と娘がいる。

サクラの遭難の連絡があっても、自分とイオリの返信は「気を付けて」「みつかったら連絡して」とそっけなく、正直すぐ見つかるとタカをくくっていた。

しかし実際には事は簡単ではなかった。最初の捜索の水曜日、夕方に「みつからなかった。大嵐でヘリコプターも飛ばない」とのメッセージが来た時は、少し焦りを感じた。

ヒョウゴは、その週の金曜日に休みを取っていた。毎年この時期、妻の瑠布乃も休みを取り、二人の時間を過ごすことにしていた。このままみつからなければ金曜日は捜索三日目。七十二時間のタイムリミットの日であった。

木曜日、夕方に「みつからなかった。山は曇っていて、時々雨、雲の切れ間にヘリコプターが飛んだ時があったが、収穫なし」と、母・明純からメッセージが入った時、思わず電話していた。明純が出た。

「あ、ごめん。今、おばあちゃんのところに来ていたの」

明純は涙声のようだった。ヒョウゴからだよ、と、祖母に話している声が聞こえた。

「ごめん。今、おばあちゃんの家の台所なんだけど、泣いてたことは、おとうさんには内緒にしてね」

祖母というのは、明純の実の母親。武蔵山脈からの帰り杜都市柚葉区の実家に寄ったのだ。そして、そこで父・良典の目を盗んで祖母の家の台所で泣き崩れたらしい。おそらく、サクラがいなくなった火曜日から、ずっと我慢していたに違いない。

明純の話だと、警察・機動隊・陸上自衛隊・消防団に、案内人として山のプロ、有償ボランティアの山岳捜索隊が出ているが、地図上の登山道しか捜さず、滑落した場合は場所の特定ができないので捜さない、と言われたそうだ。捜索二日目の今日は、出羽武蔵山脈まで登山道は歩いていて、ほぼ見えるところは捜した、と言われたようだった。

ヒョウゴは電話を切った後、すぐに妻・瑠布乃に、結婚記念のために休みを取っていた翌金曜日に、杜都市に行くことを伝えた。