大丈夫。いつか春がやってくるから
第一志望の大学で充実した日々を送る沢波俊樹。
サークルで出会った、一見クールでひときわ美人な春田恵美と、高校時代からの友人で気心の知れた木下和との間で揺れ動く心。
そんな彼に、恐ろしい病魔が迫っていた――。
青春のときめき、切なさ、葛藤、温かさを爽やかに描いた、感動の純愛小説を連載でお届けします。
春の出会い(邪気:90 代謝:80 正気:80)
「痛む?」
「少し……でも大丈夫」
気が付かないうちは平気でも、傷を見た途端痛みが増してくることはよくある。気の強そうな春田はそう言ったものの、口だけじゃなく端正な眉まで歪めていた。
「もう帰るんよね? ずっと自転車?」
こんな僕のことだ。見ず知らずの人なら放っていくんだろうけど、知っているそれも女の子だし、あとのことを考えると、放っておくわけにもいかない。ごく自然な心配を装って尋ねると、「自転車は駅まで。あとは電車」と必要最小限の言葉を弱々しく答えた。
あたりはますます暗くなり、前の道を走る車もスモールライトから強いライトに変わっていた。四月も半ばを過ぎたとはいえ少し肌寒くなってきた。校舎に沿って流れてくる風がさらに体温を奪い、落ち葉を舞い上げる。
「荷物、持つよ。自転車乗れるよね」
僕の問いかけに彼女は黙って頷いた。僕が彼女の手にあった紙袋を取り上げても無反応だった。自転車のかごにも大きな巾着袋が乗っかっている。
しかしこの紙袋は重い。細い紐の持ち手が容赦なく手のひらに食い込んでくる。そりゃあんな華奢な腕の女の子ならバランス崩すのは当然だろう。
★邪気指数、新陳代謝指数、正気指数
漢方の立場で見た、主人公沢波俊樹の体調を示します。本来、漢方にはこんな指数はありませんが、これに近いことをもっと細かく考えながら対処します。これらの変化は人によって異なります。
●邪気指数
体の中に溜まった不要なもの(邪気)の量を示す指数です。邪気は誰の体の中にもあります。食事の質や偏り、嗜好品、食べる時間などで変化しやすく、新陳代謝指数が下がり排出が悪くなることでも上昇します。邪気がかゆみの元にもなることがあります。ここでは50~150を正常範囲とします。150を超えると体調を崩しやすくなります。ただし、正気指数が高い方は、邪気指数が高くなっても体調を維持することができます。
●新陳代謝指数
体の中の、良い物(正気)、悪い物(邪気)がどれだけスムーズに動いているかを示す指数です。通常人が生きていく中で、良い物(新)を取り入れて、いらないもの(陳)を排出しています。それがスムーズに動いていること(代謝)が大切です。飲食の消化吸収、大小便での排出、血流、発汗などトータルの指数とします。運動不足やストレスなどで低下します。ここでは70~100を正常範囲とします。新陳代謝指数が下がると邪気指数が上がりやすくなり、下がっているときには正気指数も下がっていることが多くなります。
●正気指
数
体の元気(エネルギー≒正気)の指数です。バランスの良い飲食で満たされ、ほど良い休息をとることで作られます。逆にストレスや過労で低下します。正気が少なくなると、体のだるさや意欲の低下がみられ、免疫をコントロールする力が弱り、かゆみを抑えられなくなり、症状が悪化します。ここでは70~100を正常範囲とします。正気指数が高いと新陳代謝指数は上がりやすく、邪気指数が少々高くても生活に支障はありません。