東京:洞穴

思い返せばとある一月、私はジムニーに乗って旅立った。脳天気に富士山を堪能し、太平洋を満喫し、一号線をチンタラ走った。

私は旅立ちの前にワンピースを二枚買った。黒い毛皮に黒いワンピースを着て、ジムニーを走らせた。

富山から東京までひたすら下道を通り、私は途中様々な街で寄り道をした。居酒屋へ行き、バーへ行き、当てもなく福生を目指した。そして一人旅をしていることをその店のマスターに話したりした。

横須賀ではちょうど満月だった。脚の無い黒猫がいる居酒屋では高齢の女性が一人で切り盛りしていた。そして私に仕入れたばかりのレバ刺しを出してくれた。本当はビールは飲みたくなかったが、ビールと日本酒しかなかったので仕方なく瓶ビールを頼んだ。

脚の無い黒猫はずっと私の膝の上にいた。高齢の女性は、脚を失ってから人間恐怖症だったその黒猫が私の膝の上にいることを不思議がっていた。珍しいこともあるのね、と彼女はとても嬉しそうだった。

私は膝の上で黒猫を抱きながら、横須賀の次はどこへ行けばいいのかを考えていた。所持金も底をついてきたのでもうこれ以上うろつくのも限界だった。その夜私は旅館の窓から満月を見て、ひたすら神様にお祈りをした。

「どうか辿り着けますように」

それしか私にできることはなかった。泣かなかったけれども、心はいよいよ震えていた。