常夏

ここは病院ではあるが常夏(とこなつ)ハワイアンズなのだろうか? バカンスに来た訳ではないからアッキーママはどんよりとするしかなかった。大滝ナースが、

「アッキーママ、ニュースよ、ニュース。アッキーママはこれから特別室に移動よ」
「移動ですか? どんな部屋ですか? 日当たりの良い静かな部屋がいいです」
「ピンポン、極上のお部屋をお取りしてきましたよ。七〇七号室、ラッキーセブンが二つもあるわね、そして角部屋よ。予約してもなかなか入れないのよ。アッキーママって本当に運を招き寄せるみたいね、羨ましいわ」
「羨ましいですかぁ~、私は運を招き寄せてるなら病気になってないと思います。早く病気が治って自由になりたいです。はぁ~、でも七〇七号室って良い響きですね」
「そうでしょう、そうでしょう。とても静かな一番奥の部屋よ、さあ、移動しましょう」

アッキーママが移動の支度をしようと立ち上がると、大滝ナースは、

「そのままでいいから、スーツケースはベッドの足元に置いてね。サイドテーブルは七〇七号室に新しい物があるわ。さあ、アッキーママはベットに座っていていいのよ、そのままで。エレベーターで行くわよ」

恋して悩んで、⼤⼈と⼦どもの境界線で揺れる⽇々。双極性障害の⺟を持つ少年の⽢く切ない⻘春⼩説。
※本記事は、2020年10月刊行の書籍『ずずず』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。