魔境乃姫

新月の夜と満月の夜 日本全国で正式に魔境神社と名乗っている神社は、数十か所あると言われているが、実際にはその数倍の数百か所も存在している。その多くは鳥居も無く小さな祠が、ぽつんと置かれている。魔境神社はこの世界と魔界との境界にある。この世界と魔界の間には門があり、魔界との間に結界を張り神社として祀られている。

悠久の昔に、魔界との間で一つの協定が結ばれた。これにより、むやみにこの世界に現れ、人々の魂を奪うことが禁止された。しかし、たびたび魔界のものは、協定を破り人の魂を欲するあまり、境界を破りこの世界に侵入した。この世界の主様は、結界を張って対抗したが…。

平安時代末期、東北地方にある海沿いの村で、痺れを切らした魔界のものは、新月の深夜、この魔境神社のうら若き巫女を襲った。

魔界からの魔の手は、眠っている巫女をめがけ、地中から触手を一本、二本と伸ばしてきて寝間着姿の巫女を羽交い絞めにした。巫女は触手の感触に恐怖の声を上げた。異臭と共にぬめぬめとした感触が、全身に悪寒を走らせる。触手は腕と脚に絡みつき、しだいに着物と皮膚の間を、さらに乳房、腹部、下腹部にも伸びた。叫び声をあげた口にも容赦なく触手が侵入してその叫びを奪った。着物ははだけ、ところどころ白い肌が露わになった。毒を皮膚の表面に持った異形の触手は、濃い苔色のぬめりを伴い白い裸身を覆っていく。巫女は、薄れゆく意識の中で祝詞(のりと)を唱えていたが、間もなく息ができなくなり、完全に意識を失った。

次の瞬間、どこからともなく射しこんだ黄金色の光が巫女の全身を覆っていった。毒を浄化し濃い苔色のぬめりを逆に侵食していった。

※本記事は、2020年12月刊行の書籍『眷属の姫』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。