「はい、そうですが」

「私、四ノ宮剛と申します。少しお話をするお時間をもらえませんか?」

「どんなご要件でしょうか?」

「彼女のスケートのコーチをやらせてもらいたいのです」と興奮気味に言う剛。

「えっ、翼のスケートのコーチですか?  翼はスケートが好きでよくこのリンクに来てますが、本格的にやるつもりはありません」と当惑している。

「翼さんはどうなんでしょう」と剛は翼を見て「もっとスケートうまくなりたくないかい?」と訊くと翼は目を輝かせて「うまくなりたい」と答える。

「でも四ノ宮さんにコーチをしてもらう費用が支払える状況でもないです」

「コーチ代はいりません。翼さんのコーチをしたいのです」

「私もうまくなりたい」とおねだりするように話す翼。

「コーチ代がいらないなんて信じられません」と当惑気味の三枝子。

「こんな話、信じてもらえないのも仕方ないですが、私は、元々......」

「四ノ宮さんはオリンピックで金メダルをとった選手でしょ。私の世代で四ノ宮さんを知らない人はいないわ」

三枝子は内心、相変わらずイケメンだわと感じてドキドキしている。

「ありがとうございます」

「だからこそ四ノ宮さんが翼を無料でコーチをしたいなんて話、信じられると思いますか?」

「そうですね。でも翼さんは、才能を持っています。だから私はコーチをしたいのです」

「そんなに翼に才能があるんですか......。でも四ノ宮さんのコーチ代以外にもお金が結構かかるスポーツだと聞いてます」

「はい、かかるにはかかります」

「そのあたりも調べて夫にも相談しないと......」

「はい、わかりました。ご連絡先を教えていただいてよろしいでしょうか?」

三枝子は携帯の電話番号をメモに書き、それを剛に渡す。剛は翼を見て「また今度ね、翼ちゃん」そう言うと去っていく。見送る翼と三枝子。

歩きながら「一条翼!」と、ワクワクした感覚に体が熱くなっていることを感じている剛。

※本記事は、2020年12月刊行の書籍『氷彗星のカルテット』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。