今日からは、上肢に入る。つまり腕だ。子供の頃、確か小学生だったが、退屈な授業でぼんやり自分の手の甲を見つめていた時、小指の付け根の手首のところが盛り上がっているのに気付いて、触ると硬く、皮膚の真下のすぐそこに骨が有るのだと直感して、2度驚いた事が有る。

尺骨頭という名前がついている。この辺りがどうなっているのか、興味がある。まず腕の付け根から、手首まで皮切りをする。

肘の辺りを境に1周する切開を入れ、上腕と前腕に分けて皮切りをする。その際、ワイシャツの腕の折り目のように、縦方向にも切開を入れて皮切りを進める。静脈注射の時よく使われる、肘正中皮静脈(ちゅうせいちゅうひじょうみゃく)が出て来た。なぜここがよく選ばれるのか知らなかったが、テキストに曰く、皮膚から浅い所に有り、ある程度の太さが有り、付近に傷つける危険なものが少ないことなどが理由らしい。

腕の皮切りを終えて、皮をめくると、腕のほぼ全体が脂肪で黄色い色になり、そこへところどころ血管が走っていて、かつ手首はそのままで皮のグローブを身につけているという状態になった。これから重要な神経を幾つか剖出してゆく。

橈骨(とうこつ)神経、正中神経、尺骨神経などで、これらは腕神経叢までたどる事ができる。鎖骨の奥にある、網目のように入り組んだ腕神経叢は、初めて見た僕にはテキストの模式図を見てさえ、構造がよくわからなかった。

※本記事は、2020年10月刊行の書籍『正統解剖』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。