現代セルビア文学におけるホラー、SFのジャンルの旗手として活躍しているゴラン・スクローボニャ。衝撃作『私たちはみんなテスラの子供 前編』を日本初公開します。

第一章 カンタレラ! カンタレラ! 一九一九年六月

ボスィリチチ夫人は、そのイタリアの客から依頼された内容をラヘラ・クロムバヘルから聞いたときに、少し驚いて、不満な様子を露わにしました。

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宿屋の素晴らしい食事とサービスに対しての誉め言葉によって丸ぽちゃ顔に浮かんだうれしさはすぐさま消えた。アンカは夫人に、ジョルダーニ氏が二台のテスラカーのうちの一台借りたがっているということを伝えた。

未亡人は弁護士であり助言者である著名なヨヴァン・アヴァクモヴィチのアドバイスに基づいてその二台を購入したものであり、宿泊客にリーズナブルな値段で貸し出していたのであった。モダンなテスラカーを活用して、首都が提供するものを探検したい人々を集客できるというアドバイスであった。問題はイタリア人の要求自体ではなくて、このハンサムな外国人に教えるという口実で車に乗り、夜の街を一緒に過ごすという若い娘の意図が、既に勘ぐりの眼で見られていた。

宿屋の宿泊客同士による…こうした…交流は、夫人の宿屋の評判を落としてしまうことだろう。一方では、その若い女性はかなり愛想の良い人ではあるが、優雅でチャーミングな姿の背後には、一人の女性参政権運動活動家の性格が隠れていた。今朝の不快な出来事の後、未亡人は外国人客の面前での印象をより良くしようと強く願っていたので、何と言ったらいいのか何分か思案した後に、気を取り直して、建物後庭の軒の下に停めてあった二台の車高の低い電動式オープンカーのうち、一台の接触式キーを二人に渡した。

小さな婦人用かばんを上腕にはさんだクロムバヘル嬢と、手放したがらない旅行かばんを片手にすばやい身振りで何かを説明しているジョルダーニとがテスラカーへの小道に出る裏門を通っていくのを見て、ペルシダ・ボスィリチチ夫人は、車を貸したことは間違いではないようにと願っていた。