「僕は50歳だ。ハーレムで生まれ育ち、いままでずっとここにいる。ハーレムは変わったよ。白人や日本人が増えた。いいことだ」

「本当にそう思いますか? かつてはほとんどの人がここに近寄ろうともしなかったのに」

「そうだな。でも、それはハーレムが変わったってことなんだ。かつては決して出会えなかったような人にこうして出会えるようになったんだから。それにいろんな文化が入り込んで、融合していいと思うよ」

これは果たして彼の本心なのだろうか。私は肯定も否定もせずに、ただ黙って彼の言葉に耳を傾けていた。

「キミはハーレムの知識がたくさんありそうだな。キミが僕たちの仲間(ファミリー)だってことはわかる」

彼はさらに語気を強めこう言った。

「ここはハーレムの学校だ。僕はこの年でもっと学びたくなったんだよ。もっと教育を受けたいんだ」

彼の言葉は私の心を強く揺さぶった。イベントに参加した人の中で、彼のように思っている人が、どれだけいるだろうか。教育は、自分や他人を知り、社会を知り、 人生を豊かに生きていくために絶対に必要なものだと私は思っている。

※本記事は、2020年11月刊行の書籍『HOOD 私たちの居場所 音と言葉の中にあるアイデンティティ』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。