そして気付いた。このおじさんは、私と同じにおいがする。楽しそうに話しているけど何か無理しているみたい。私にはわかる。楽しく話せば話すほど悲しく思えてくる。そう思った。

高っちゃんというおじさんは高津という名前である。43才の独身男で女性とは無縁の人生だったが、隣で松下由樹似のかわい娘ちゃんと話している。内心かなりうれしかった。こんなかわいい娘と仲良くなれたらいいなと思いながら、さらに2人は盛り上がった。

高津はさえない中年男だ。隣にいる華奈とは違い、子供の頃から何をやってもダメで、今だに仕事もうまくいかず転職をくり返している。負け組の典型だ。その上、仕事がうまくいかない現実から逃避するため競馬にのめりこみ、サラ金の支払いに追われている。

そして、最近、勤め始めた土建屋でも、フィニッシャーとダンプの間にはさまれ、ろっ骨を骨折して入院した。復帰はしたもののろくに仕事もできず、毎日、現場でどやされている。唯一この店が自分を明るく発散できる場なのだ。

友達もいないのでいつも一人で来て、ママをくどいて歌を2、3曲歌ってひとしきり酔っ払うと帰るのだ。近所のアパートに一人暮らしをしている。

華奈はこのこきたなくさえないおじさんに執着した。そして、電話番号を交換した。この悲しいおじさんを温めてあげよう、そう思った。

高津はこの夢のようなひとときから去りたくなかった。しかし、明日の仕事を考えると帰らないといけないので、「中ちゃん、おあいそ」と言って店を出た。

※本記事は、2020年12月刊行の書籍『花とおじさん』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。