健ちゃんは僕の人生初めての友達らしい。こんなに簡単に友達が出来るなんて僕は今でも驚いている。だから健ちゃんとは入学したその日から驚くほどずっと行動を共にしていた。

「次は3Dデザインの授業だろ。準備しろよ」

「そうだね。手も洗いたい」

芸術総合学科だから、色々なものを作ったり描いたりする。健ちゃんは特に3Dデザインの授業が好きらしく、実際完成させるものはクラスで一番だと僕は思っている。

僕は完成間近でヤスリ掛けをしていたブローチを机の引き出しにしまった。健ちゃんが入学した初日、オリエンテーションが終わった後、おもむろにプレゼントしてくれた、小さな卓上ほうきと塵取りで机を掃いた。

「あとさ、言いたくねぇんだけどさ、友達だから言うぞ」

「なに?」

「お前のそのブローチとかペンダント、ネットで売られてるぞ」

「え?」

「コンビニの飯と交換してるけど、いくらで売られてるか知ってるか?」

健ちゃんはスマホの画面を僕に突きつけてきた。

「……五千円で、ソウルドアウト?」

「もう作ったもん交換すんの止めろ。割に合わねぇし、犯人突き止めるか?」

「この作品は伊達さんとツナサンドで交換したのだ」

「やっぱり覚えてるのか?」

「もちろん。作ったモノも交換した人もいつ交換したかも何と交換したかも全部覚えてるよ。作るのにかかった時間も材料費も全部覚えてるから」

本当のことだった。別に記憶しようとして覚えていたわけじゃない。忘れられないだけだ。

「お前、だから友達できねぇんだよ。そんなに全部記憶されたら引くって」

「だから今まで友達いなかったんだ。つくろうともしなかった。それなのに健ちゃんは変わってるね。だいたいの人は生まれてからの記憶が全部あるって言ったって信じてくれないのに」

「だって勉強以外の記憶が全部あるとか、凄すぎるだろ。面白くて手放せねぇよ、というか転売の件だけど、俺が伊達に怒ってやろうか?」

「いいよ。でも、確かに健ちゃんの言う通りだ。こりゃ簡単に交換しちゃいけないね。五千円あったら焼肉に行けてドリンクバーも付けられる。僕もこのアプリで売ってみようかな」