「滑落したら、捜してくれないんですか?」

車から降りて警察の車を見つけ、石黒に挨拶をする。石黒はすぐに、陸自・消防団・機動隊の隊長が集まっている本部に案内した。良典と明純は、一人一人に頭を下げ、現在の状況を聞こうとした。口火を切ったのは陸自だった。

「現在、登山道を全て歩いて捜しています。道の上しか捜せないので、滑落した場合は捜しませんので」

滑落した場合は捜しませんので?

「滑落したら、捜してくれないんですか?」

陸自の隊長らしきその男は、明純を一瞥すると山に向かって指差し、声を上げた。

「険しい場所は捜せないでしょう。未だに行方不明の人もたくさんいますから」

滑落したから、みつからないんじゃないの?

武蔵山脈の山々は緑深く、曇った空にヘリコプターも飛ばせず、山に詳しくない素人軍団には、地図上の登山道しか捜すすべがなかった。
 

※本記事は、2020年12月刊行の書籍『駒草 ―コマクサ―』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。