「報道してよい」と言ったことへの代償

十五時を過ぎた頃、良典が一度帰って連絡を待とう、と提案した。着いてから三時間余り、警察の姿も見えないまま、何もできないと判断し自宅へと向かった。帰る途中、十七時くらいに緑警察署から「今日は捜索を打ち切ると、武蔵警察署から連絡があった」と電話が来た。

さらに家に帰ると、十九時に武蔵警察署の石黒から電話があり、「先ほどまで捜したが、見つからないので本日は打ち切る」と連絡があった。お礼を言いながら、何が本当なのか、やりきれない思いが底なし沼に引き込まれていく感覚に苛まれた。

「おい、出ているぞ」

良典の声で指差す方向を見ると、テレビのニュースにサクラの遭難のニュースが流れていた。

「杜都市緑区更科〇丁目の看護師 岬索良之介」と、住所も名前も完全実名報道の上、サクラの車が大写しになり、車のナンバーまでテレビに映っていた。まだ、サクラは生きている。サクラが帰って来た時のサクラの個人情報は、何一つ守られることなく垂れ流しにされたのだ。

これが、夢うつつの中、「報道してよい」と言ったことへの代償か。これでは、物見遊山で家を捜しに来る者だっているのではないか。よく「被害者に人権はないのか」と言われるが、誰が住所や地番、車のナンバーまで公表して良いと言ったのだ。

その夜、眠れなくても身体だけは横にしようと床に入った深夜一時過ぎから、何通か知り合いからメッセージやメールが届いた。たいていは、考えた末に送った心配メールだが、中には「気になって眠れないからどうなってるか教えて」というのまであり、それらに「うちです。お気遣いありがとうございました」と答えるのが精いっぱいだった。

翌捜索二日目も曇り、時々雨。朝五時から警察・陸上自衛隊・消防団・機動隊が捜索に入るとのことで、良典の車で七時には「毘紐天」の駐車場に着いた。武蔵警察署に電話を入れると、地域課の坂崎という人が出た。「毘紐天」の下の「駒草」という駐車場が本部になっていて、担当の石黒や、陸自・消防団などが集まっているとのことだった。言われるままに毘紐天から下ったが、それらしい場所がない。そもそも登って来る時に、そんな場所はなかった。やむなく再度登り、毘紐天より上に「駒草」駐車場を見つけた。