幹部候補生訓練が始まって二週間後、郵便受けに杉井宛ての一通の手紙があった。頻繁に便りをくれる母からかなと思って封筒の裏を見ると、佐知子からだった。入隊以来三ヶ月の間に親戚、友人から何通もの丁寧な手紙を貰い、これならば佐知子から来てもおかしくないと杉井は思っていた。

しかし一方で、杉井の期待を裏切っていつも淡泊な佐知子のことだから、自分のところへ便りをすることなど佐知子の発想の外なのかも知れないとも思った。ただ「去る者日々に疎し」との諺に常に一抹の懸念を感じていた杉井は、佐知子の名前を見て、勇んで封を切った。

※本記事は、2019年1月刊行の書籍『地平線に─日中戦争の現実─』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。