第4 破棄自判

憲法違反についての東京高裁の見解

医師法第21条に定める届出義務が発生する場合については、同条を適用することが憲法第31条(適正手続の保障)に違反することもない。医師法第21条が要求しているのは、異状死体等があったことのみの届出であり、それ以上の報告を求めるものではないから、診療中の患者が死亡した場合であっても、何ら自己に不利益な供述を強要するものでなく、その届出義務を課することが憲法第38条1項(自己負罪拒否特権)に違反することにはならないと判示している。

東京都立広尾病院事件東京高裁判決についての考察

この判決の大きな意味は、第一審の東京地裁判決を破棄したことであり、東京高裁が自ら医師法第21条と検案の解釈につき、見解を示したことである。第一審である東京地裁判決と控訴審の東京高裁判決の大きな違いは、「異状」を認識した時点、即ち、医師法第21条の規定の二十四時間の判定起点が異なることである。

その前提として、東京高裁は、①医師法第21条が定める死体の『検案』とは、「医師が死亡した者が診療中の患者であったか否かを問わず、死因を判定するためにその死体の外表を検査すること」と定義している。その上で、第一審の東京地裁の判旨に触れ、②東京地裁が死体の『検案』を行い、「異状」と認定した死亡確認時刻(平成十一年二月十一日午前十時四十四分頃)の外表検査は、死体の着衣に覆われていない外表を見たにとどまる。

心臓マッサージ中に右腕の色素沈着に気付いていたとの検察官調書も具体的記述ではなく、「じっくり確認まではしていなかった」としている。警察官調書その他の証言と照らしても、死亡確認時刻にD医師は「右腕の異状に明確に気づいていなかったのではないかとの疑念が残る」とし、第一審判決に事実誤認があるとした。

高裁判決は、「外表異状」の判定につき、「じっくり確認」し、「明確に気づいて」いなければならないとし、東京地裁の認定時点では、「外表異状」を認めたとは言えないと述べている。この高裁判決は、「外表異状」の明確な「認識」が必要であるとしたところに大きな意味があると思われる。