序章

もう随分と前のこと、おそらくは中学、高校の時分だったでしょうか、旅と旅行はどう違うのか、そんなことに何度か考えを巡らせた記憶があります。

森と林、あるいは雲と霧、登山でいうガスと同じで、それは同義語でしかないのかもしれませんが、心情的にはちょっと区別したい思い入れというかこだわりといおうか、引っかかる部分があります。観光旅行、修学旅行、海外旅行、傷心旅行とはいいますが、「○○旅」とはいいません。逆にひとり旅、山旅といういい方はしても「○○旅行」は一般的ではないでしょう。若かりし頃には、こうしたことに何とか理屈をつけよう、自分なりに答えを出そうとしていたのかもしれません。

ツアーのバスに乗り、ただ連れ回されるだけの「旅行」は「旅」とはいえないのではないか。誰かの後ろにくっついて、自分では何の計画も考えもないのも旅ではないのではないか。そんな風に「旅行」と「旅」の違いについて思い巡らせ、自分なりの「旅」を見出し、作り上げようとしていたのかも。

60歳を過ぎた今でも、たまにそういうことを考えなくもないのですが、かといって未だに明確な相違を指摘できない。真剣に考えるのも面倒だし、もうどうでもよくなったのかもしれません。

登山を始めて以降は特にそうで、ある程度の経験を積んだ後は、自分で全てを計画し、実行に移してきました。その中で、「旅行」でも「旅」でも、どっちでもよくなってきた。「旅」が「旅行」よりもより豊かなものだという風に仮定しても、日帰りのバス旅行にだって思いがけない出会いとか出来事がないとはいい切れないし、より大きく深い想い出が残る可能性だってあるわけです。人それぞれで捉え方や考え方も違う。印象や得られたものの大小なども、一概に定義もできなければものさしが存在するでもないわけです。

ただ、私なりのこだわりや思い入れを優先させ、この連載では「旅」という表現に統一し、話を進めていきたいと思います。