最後の訪問地は、長谷川等伯の国宝の障壁画がある智積院にした。清水寺とは打って変わり観光客がいない。清水寺と間違えて、この寺に来ていた外国人を除いては。

宝物殿で、「桜図」「楓図」「松に秋草図」「松に黄蜀葵(とろろあおい)図」をはじめとする国宝の障壁画を女房と二人きりで堪能する。惜しげもなく金箔を使い、豪壮で華麗な作風は安土桃山文化を体現したものだ。ガラス越しではなく、目の前で実物を見られるので驚いた。大丈夫だろうか。どうか悪戯の被害に遭いませんようにと祈る。

次に、寺の大書院に移動し、東山随一と言われる名勝庭園を鑑賞する。大書院に面して、細長い池があり、その背景に築山が設えてある。夫婦だけの空間。蝉の鳴き声を遠くに感じ、時間がゆっくり、ゆっくりと流れていく。折好く、誰もいないので、広縁に寝そべり肘枕で庭を眺める。この広大な庭園の雑草の処理は大変だろう。自宅の雑草だらけの狭い庭と比べて、ふと思う小市民の悲しさ。

かつて、国宝の障壁画が飾られていたのが、大書院である。現在は、そのレプリカが飾られている。先ほど見た国宝も、このような輝きを放っていたのかと在りし日を思った。

ともかく、誰も見てないので、畳の上で大の字になった。それから寝そべったまま障壁画の端から端まで、ゴロゴロと転がる。行きつ戻りつしては、下から目線で障壁画を飽きるまで眺めた。

なんて贅沢な時間。ご馳走様でした。