僕が少しだけペダルを動かして反対側から斜めに持ち上げると、絡まっていたものが簡単に外れ起き上がった。「ほらね」と彼女を振り返ると、唇を尖らせて黙ってじっと見ていた。

自分の自転車も含め残りの十数台もすばやく引き起こすと、何を話すこともなく自転車置き場を出た。そこは窓から明かりが漏れていて、校舎の影になるさっきのところほど暗くはない。

続いて彼女もゆっくり出てきて僕を見上げた。彼女のジャケットやガウチョパンツにはあちこちにチェーンの油が付いていた。

「服、かなり汚れたね」

これから帰らなきゃならないのに気の毒なことだ。春田はちらりと自分を見ると、小さなため息をついて「仕方ないよね。洗濯したら落ちるでしょ」とこともなげに言った。いや簡単には落ちないんだけどなあ、と思ったが僕らしく口にはしなかった。

ふと足元に目をやると、ガウチョパンツの裾から油ではないものが流れているのが見えた。流れるほどなんてよほど切れたか、大きな擦り傷だ。

「ケガしてるやん」

つい出てしまった驚きをはらんだ声に、彼女は自分の足に目を移した。「あ」と声を漏らすと、平然としていた春田の口元がにわかに歪む。

ガウチョの裾を少し持ち上げると、膝の下が斜めに切れていて傷口から血が溢れ出ている。どうやらチェーンカバーかなんかで切ったようだ。

※本記事は、2020年11月刊行の書籍『桜舞う春に、きみと歩く』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。