「じゃあこれからじっくり探してみます」

「見つかるよう祈ってるよ」

「ありがとうございます。お疲れ様でした」

「お疲れ」

岳也と洋一はほぼ同時に背を向けた。暗い帰り道を洋一は歩き始める。こんな所にルービックキューブを落としたはずはないと思いながらも、一応道端にも目を配る。もしかすると誰かに拾われてしまったのかもしれない。コンビニにも寄って、店員に落とし物はなかったかと訊いたが、ないと言われた。

新しいものを買えばいいじゃないか、と人は言うだろう。なにもその一つに固執することないじゃないか、と。だが、あのルービックキューブは特別なのだ。この世にたった一つしかないルービックキューブであり、簡単に取り換えがきくものではない。だから、なんとしてでも見つけなければいけないのだ。

※本記事は、2020年10月刊行の書籍『空虚成分』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。