シマは額の日の丸の鉢巻をはずしアツシに毛布をそっとかけてやる。まだあどけないアツシの寝顔を見ながら。こんな、いたいけな少年を戦争にかりだして……シマはTENCHIを修理する部屋に戻り椅子に座った。

煙草を吹かしながら、ハンダ小手とペンチを手に机の上のTENCHIを修理する。涼子は隣でアシストしていた。

「鈴木さん、菊池さんもそうですが、シマさんもすごくいい腕してますね」
「ほめても、何もやらねえぞ」

シマはぶっきらぼうにTENCHIに応える。

「ところで、涼子は好きな人はいるのか」
「突然、何なんですか、そんな人、いませんよ」

急なシマの問いかけに涼子は頬を赤らめる。

「知ってるぞ、鹿児島の鹿屋に行ったあのかっこいい海軍の飛行機乗りだろ。あそこ、今、特攻の最前線基地になっているがな……無事だといいが、昨日この基地から招集された二人に手紙を渡したのか」
「はい、黒田兵長と丸さんに頼みました。先輩はなんでもお見通しなんですね……彼が、特攻に行く前に何とかしたいんです。でも、もう行っているかもしれない……」

涼子の白い頬に一筋の涙が伝う。

「きっと、まだ、大丈夫だ。希望は捨てるな……」
「この海亀ロボットと黒鞄の中身に賭けてみるか……TENCHIが瞬間に移動出来るんなら、その恋人とやらを特攻基地から連れてこれるかも……」
「ふ、ふ、そうですね……」

涼子は、ゆっくりと頷く。TENCHIは二人の会話を静かに訊いていた、そして。

「取り込み中すみませんが、煙草を吹かしながら作業するのはやめてもらえませんか。煙草の灰とか体の中に落ちるとまずいんで、わたし、こう見えてかなりデリケートな構造でして」
「海亀ロボットのくせに生意気な、私がそんなことをするか!」

シマは何を言い出すかと語気を強めた。

「私も、先輩が好きだけど、健康のため煙草は止めた方がいいですよ」
「もう、いいんだよ。何もかも捨てているし、こんな変わり者一生独身だ。理数に強いからといって女だてらに無理やり軍隊入れられて、この基地も初めは単なる通信基地だったが、今では情報から研究までする何でも屋だからな」

自虐的にシマは云った。