「私の心の目に映るのだ。ホレイショー」
「私も一度見たことがあります。素晴らしい王でした」
「彼は尊敬に値する男だった。彼のような人には二度と会う事はないだろう」
「私は昨晩会いました」
「誰に?」
「元デンマーク王に」
「王に!」
「夜にマーセラスとバーナードが見ました。元デンマーク王の格好をした者を。鎧と兜を着用して、堂々と、そしてゆっくりと歩いたそうです。三度目の夜に、私も見たのですが、時間も姿も全くその通りでした」
「それはどこだ?」

マーセラスは「物見の大切な場所、胸壁の上です」と言った。ハムレットは「話しかけてみたのか?」と言った。ホレイショーは

「はい。しかし答えてくれませんでした。何か言おうとしたように見えましたが、そのとき、おんどりが鳴いて、姿を消してしまいました」
「奇妙な話だ」
「それは真実です。そして知らせるのが義務だと思いました」
「当然だ。しかし気になる話だ。今夜も見張りをするのか?」

マーセラスとバーナードは「はい」と言った。

「鎧と兜を着用している、と言ったな?」
「はい」
「上部から足の指まで?」
「はい」
「なら、顔は見えなかったのだな?」
「いいえ、見えました。あご当てを上げておりましたから」
「それで、彼は不機嫌に見えたか?」
「怒りというよりは悲しい表情でした」

※本記事は、2020年2月刊行の書籍『令和晩年』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。