現代セルビア文学におけるホラー、SF のジャンルの旗手として活躍しているゴラン・スクローボニャ。衝撃作『私たちはみんなテスラの子供 前編』を日本初公開します。

第一章 カンタレラ! カンタレラ! 一九一九年六月

「あなたは、きょう展示場には行かれましたか?」

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アンカが無頓着な口調で尋ねる。「ああ、行きましたよ」と、そのイタリア人は答えて、エネルギッシュに頷く。

「だけど……ちょっと展示ブースを回ってみただけですよ。どの会社が何を展示しているのかを見るためにね」

彼は、まだ食べきっていない鳩肉のピタパンのほうから眼を上げ、濃い口髭の下でほほえみの表情を浮かべた。

「でも、なぜ仕事について話そうとするの? それは退屈な話ですよね。他にもたくさんの話題があるでしょう」
「もちろんですとも」アンカは同意する。
「ベオグラードのどんなところが気に入りましたか?」
「ええ、まず、第一印象はれっきとした大都会だということです。もちろん、ローマのようではありません。違う、違う。ローマとは全く違ったタイプの都市です。あなたの首都は古代にはローマにはかなわなかったが、現代では驚異的な魅力のおかげで引けを取りません。大通りといい、路面電車、電気自動車と言い、実に素晴らしい」
「その通りです。テスラの会社の恩恵の数々です。あなたは電気自動車を運転できますか?」