禅は悩んでいた。

「お前の新しい門出を祝わせてくれ」

賢一のその言葉に禅は顔を上げた。

「賢一、本当にありがとう……」
「じゃあ、決まりだな!」

そう言って笑う賢一を見て、禅は感謝の気持ちで一杯だった。その笑顔は、子供の頃一緒に遊んでいた時の笑顔だった。その笑顔は、無邪気に遊んでいたあの頃と何も変わっていなかった。

ただがむしゃらに走り続けてきた禅にとって、その笑顔は安らぎを与えてくれた。嬉しかった……ただ嬉しかった……禅は思わず下を向き、また涙を流した。

賢一は、警視庁の一室に呼ばれた。ドアをノックし、中に入ると深々とお辞儀をした。

「失礼します」

そして直ると敬礼をした。

「刑事部長、お呼びでしょうか?」

刑事部長は、椅子に座ったまま、窓の外を眺めていた。

「キミが警視庁に戻ってから一年か……」
「はい」

刑事部長は、椅子を回すと賢一を見つめた。

「どうだね? 県警とは違うかね?」
「そうですね……多少の違いはありますが、やる事は同じですから」

それを聞いて、刑事部長は苦笑した。

「キミらしい答えだ」

※本記事は、2020年10月刊行の書籍『アリになれないキリギリス』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。