痛みならある程度、その原因がはっきりしていて、他人とも比較的共有できます。また、鎮痛薬は強力なものがあり、その効果も絶大です。

しかしかゆみはどうでしょう。最近でこそアトピー性皮膚炎がある程度認知されていますが、ひと昔前までは正常な人には理解しがたかったと思います。

またかゆみ止めの薬は、たくさんあるけれど“これなら絶対に止まる”というものはないのです。そしてかゆみは少し残ってもつらいものなのです。

研究室の頃、特に成人アトピー性皮膚炎は一般的ではありませんでした。かゆみで眠れない日が続き、かゆみより疲労と眠気が強まった時だけ気絶するように眠るという生活を続けていた時、ある人から言われました。「かゆみなんか気の持ちようだ」と。

この時のショックは今でも覚えています。しかし“たるんでいる”のか“これ以上は無理”なのかというものの境界線を引くのは、その個人の忍耐の許容量もあって難しいのです。特に日本は“忍耐”が美徳とされる面があります。状況にもよりますが、患者さんと周りの人が冷静に判断して対処してもらいたいと思います。

※本記事は、2020年11月刊行の書籍『かゆみの処方箋』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。