この神経を根元へたどると、腕神経叢があるらしい。が、今回は確認のみで、他に幾つかの神経、血管、特に腋窩動脈やその枝を確認してこの章を終わる。

それにしても、皮を切られたり、はがされたり、内部まで切られても、ライへは痛いとも言わず身動き一つしない。やはり命を失って、モノとなってしまっていることを実感する。

かつては生きていたヒトを、我々は扱っているのだ。生きているヒトから、命が抜けると、生きていたヒトになる。命とは何だろう。

次の章には、見出しにいきなり、鎖骨を切る、とある。骨を切るらしい。痩せた人の首の付け根の前側から、水平に肩に向かって皮膚の上に突き出して見える骨だ。

まず、切断する近辺の骨膜を剝がして切りやすくする。半透明の、非常に丈夫な膜だ。人工的にこのような膜が作れるなら、色々な所で役に立つだろう。

のこぎりで切断するのだが、専門の用具なのか、大工さんが使うものなのか、我々には判断しかねた。ともかく、外側3分の1ほどの所に切れ目を入れて、のこぎりを動かす。

木屑ならぬ骨粉が落ちてゆく。けっこう硬い。のこぎりをせわしなく前後している内に、煙は見えないもののタンパク質の焦げる匂いがして来た。

※本記事は、2020年10月刊行の書籍『正統解剖』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。