「あいつって、純な奴なんだぜ」

ぼくは真剣なふりをして、鴇子を見つめた。

「あいつがさ、女子みんなから嫌われているのは知っている。それは分からないことじゃない。でも、あいつに何の問題があるんだ。暴力を振るったり、人にいやがらせをしたりしたことがあるか?」

ぼくは、少し興奮してみせた。友達思いの友人を演じてみせた。

「うん」
「お前なら、分かってくれると思う。太郎のことをさ」
「うん」

こんな表情の鴇子を見るのは初めてだった。それがどうしようもなく面白い。

「ねえ、また徴古堂に行こうよ」
「ごまかすな」とぼくが怒鳴ると、鴇子は身をすくめた。
「こっちは、真剣に頼んでるんだ。太郎にお前の気持ちを伝えようとしてるんだ。そりゃあこんなこと頼むなんて常識からはずれてることは分かってる……」
「どうして、そんな怒るのよ」
「べつに怒ってなんかいないさ。お前なら分かってくれると思ってさ」
「でも……」
「な、頼む」

声を抑えて静かに言った。

「うん」

鴇子の態度にぼくは戸惑った。こんなにあっさりと承諾してしまうとは。

※本記事は、2018年3月刊行の書籍『ブルーストッキング・ガールズ』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。