まずはこの街について、ここに住む人たちやここで起きた出来事について話すことにしよう。話さなければならないことが、余りにも沢山あるのだ。

パングレアスでは一日中――雨が降っているときでさえも――太陽が降り注ぎ、官能的な興奮を呼び覚ますような熱気が街を満たしていて、湿度の高い空気はねっとりと肌にまとわりついた。まだ年少なのに、大人のような体格をした子どもたちが通りを闊歩した。目に鮮やかな光沢を放つリンゴや甘味の少なそうなうすい色のブドウが市場に並び、街外れにある漁港から毎朝水揚げされる魚の新鮮さに、私たち日本人家族は驚嘆したものだった。

「見てごらん。海から上がったばかりの獲れ立ての魚だよ。まだ目が活きてる。こんなところでこんな綺麗な魚が手に入るなんて……」

母は魚に負けないくらいキラキラした目でそう言った。実際、パングレアスの魚は刺身でもいけた。わさび醤油をつけて食べていたが、家族の誰も、一度もお腹を壊したことはなかった。

現地住民にとってはそのような調理法は考えつきもしないことらしかったけれど……。彼らは私たちが刺身を食べるのを家まで見に来たが、決して手を出そうとはしなかった。私たちはそんな彼らを見て笑った。

※本記事は、2020年11月刊行の書籍『スモーキー・ビーンズ』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。