餃子で満腹になった僕ら。店を出てしばらく商店街を歩いていると、ブティック・マドンナという店が見えてきた。入り口はガラス張りで、外から店内が奥まで見渡せる。店内ではお婆ちゃんの店員が、お婆ちゃんのお客さんにブラウスのようなものをすすめている。

店の外にまで棚やラックを設置していて、メンズやレディースの洋服や、カバン、雑貨類など幅広い商品を取り揃えている。僕はラックのハンガーに掛けられた商品の中に、半額セールの値札のついた黒のウインドブレーカーを見つけた。僕は再び頭の中でオカンのことを思い出して、目頭が熱くなっていた。

「なんか思い出して笑ってまうわぁ。さっきの駿ちゃんのミニ四駆の話」

「ホンマに?」

「ほんまオモロイで。久しぶりに、むっちゃワロたわ。だって、TAMIYAやなくて、TAMAYAやで。ほんま考えた奴がアホすぎてウケるねん。よう、それで売り出そうってなるよなぁ。完全パクリやのに」とマコトはさっきの話を再び持ち出して笑った。

「フフフ。オカンとのええ思い出やで」

「ほんま、ええよ。その貧乏エピソード、俺大好き! だって、優しさと哀しさがギュって詰まってるもん! しかも、なんか笑えるし」

「こんな貧乏話やったら、なんぼでもしたるで」

「優しいきよぴーが駿ちゃんのこと、本当に気にかけて起こった事故やから一層笑えるねん。親子の絆の強さ、半端やないもん」

「中学の授業参観の話、言うた事あったっけ?」

「え? 俺、知らんわ」

「俺ら、中2だけクラスちゃうかったやん? そん時のマコトも知らん授業参観事件」

「その話、ちょうだい、ちょうだい!」

「オトンが失踪してからさ。母子家庭で、オカン仕事ばっかりでさ。運動会やら発表会とか、授業参観とか全然来てくれへんかったのよ。ってか、来る時間も取られへんくらい働き詰めでさ」

「確かに、中学ん時のイベントで、きよぴー見た記憶ないわ」

「せやろ? でも、ツレ見ると運動会とか家族で見に来てくれてるわけやん? 授業参観にはお母さんがお洒落して観に来てくれたりさ。でも俺の家はそんなん全くなくて。オカンは俺を育てるために働いてくれてて、決して遊んでたわけやないねんけどな」

「その頃て、周りが気になる年頃やもん」

「わかってんねんけどなぁ。わかってんねんけど周りと比較してまうねん。ほんでさ、俺、またオカンに言うてもうたわけ。なんでウチだけ観に来てくれへんの!? 俺のことが可愛くないんやろ! ってオカンを責めてもうたことあんねん」

「まぁ駿ちゃんも子どもやもんなぁ」

「ほんで、しばらくしてさ、授業参観があってん。ほんならな、今回はオカンがな、仕事抜け出して来てくれるって言うねん」

「可愛い駿一が駄々捏ねるからぁ。きよぴーほんま、優しいな」

「俺、めっちゃ嬉しいやん? ドキドキして当日の授業参観を迎えるわけ。当日、忘れもせえへん、国語の授業やったわ。友達のお母さん、みーんな綺麗な格好してて。美容院行ってカラーしてパーマして。参観しに来たんか、参観されに来たんかわからへんくらいのお洒落具合や」

「そら、お洒落してくるわぁ。子ども的にも嬉しいやん。あいつのオカン、綺麗やなぁ、美人やなぁって言われたら嬉しいもんやもん」

「そうそう。そういう要素絶対あるやん。なんやったら、めっちゃ老けてるオカンやったりしたら、お前のオカンおばあちゃんやんけ、とか言われてイジられる可能性あるやろ?」

「あるある。そういう年頃やからな」

「ほんで、当日の授業参観ですよ。綺麗にお洒落した母親達が、教室の後ろの方にスタンバイするわけよ。ちょっと、ええ匂いするし」

「香水つけてるからね」

「自分の席から振り返ってオカン探してもおらへんねん。授業が始まっても全然来おへんくて。授業も30分が過ぎて終盤になってな。あー、やっぱり仕事抜けられへんくて来られへんねやぁって思ったその時や。ちょうど、俺、窓際の席でグランドを眺めてたら、一台のバイクがものすごいスピードで学校の中に入ってくんねん。グランドの砂巻き上げて」

「バイク?」

「だんだん近づいてきて、そのバイクが、ホンダのスーパーカブやってことがわかってん」

「スーパーカブ?」

「お洒落な感じのカブやないで? 新聞配達に使うタイプの業務用のカブ。ほんでそれにまたがるのが、オカンやってわかってん。ウィイィィィイィィン!!! 言うて校庭の砂埃巻き上げながら、オカンが近づいてくるねんで? 俺、唖然としてさ。仮面ライダー来たぁぁ! って思たもん」

「それ、ものすごい絵やな。ムッチャかっこええ登場やん」とマコトはゲラゲラ笑った。

※本記事は、2019年11月刊行の書籍『尼崎ストロベリー』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。