記憶力が良すぎると友達ができない

おかげで十八年間生きていて、今まで不自由なことばかりだった。同級生からは変わり者扱いをされて、友達も仲間もいない。よく「私友達いないからぁ……」とか言っているだけの人と違って、本当に一人もいない。体育も美術も理科の実験も誰もペアになってくれない。仮に無理やりペアにされると、もれなくその子は可哀想な目で冷やかされている。もちろん好意を寄せてくれている異性もいないのだろう。僕も誰かを好きになったことはないけど、誰が誰を好きかとか、あとどれくらいでどっちから告白して、どのくらい付き合って、別れるかまで想像していた。しかもその想像はだいたい当たる。話し相手もいないので、することもなく授業を聞き流しているせいか人間観察は僕の趣味以上に特技になっていた。

けど、そんなふうにいつも毛嫌いされて僕と疎遠を好む人たちにしかまだ出会えていない。もしも、友達や恋人が出来たら、その時は、今よりどのくらい苦しむことになるんだろうといつも想像してしまっていた。

僕の記憶力と想像力は時に暴力だ。考えないようにしても一度気にすると心がすり減るほど想像しないと気が済まなかった。

生まれた時からの全ての記憶があるのに勉強だけできない。そんな体質を呪わないでいられるのは、なるべく一人で過ごす努力をしてきたからだ。人間は人とのコミュニケーションをとらないと実はストレスがたまると言う。けど、僕はそれを覚悟の上で一人でいることを選んできた。周りも実に協力的に僕を独りにしてくれたと思う。

いくら勉強しても記憶に残らないけど、思い出や風景、会話などが全部ある。そんなの辛いなんてもんじゃない。忘れたくても忘れられないなんて地獄だ。普通の人なら時間が解決してくれるのかもしれないけど、僕は記憶のフラッシュバックで何度だって苦しむ。

だけど、それが僕だ。両親はそんな僕を虚言癖と言って信じてくれていないから誰にも真剣に自分の体質を相談できたことはなかった。

虚しい。誰かとの共通の思い出が少なすぎる。どうして僕だけが覚えていて、みんなは忘れていくのだろう。ロボットみたいなのに感情がある自分を好きになれない。いっそロボットだったらよかったのに。

こんなポエムチックな脳内独り言も全部記憶される。

記憶ってやつは本当に厄介だ。

※本記事は、2020年12月刊行の書籍『100点をとれない天才の恋』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。