三和電機商会のオヤジは、今日も暇を持て余して店内でじっとワイドショーを見ている。時友ミシン商会のオヤジは、髪の毛を墨汁で塗ったんじゃないかっていうくらいの艶のある黒髪が印象的なナイスミドルだ。今日も主婦相手に雄弁に営業トークを繰り出している。

質屋丸中のオヤジは、退屈に耐えきれなくなって今日も店内で居眠りしている。洋装店ベニスの経営者である三和商店街のトップレディなおばちゃんは、グッチのTシャツだって、ルイヴィトンのTシャツだって、今日も2980円で販売している。

シューズショップ富士乃屋のダンディーなオヤジは、大型量販店への宣戦布告が如く、今日も大声で客の呼び込みをしている。電信柱にもたれかかって地べたに座り、酒を飲んでブツブツ言っているいつもの年寄りも元気そうで何よりだ。

いつもの尼崎の光景。商店街のどの大人たちを見ても僕はくだらなく感じた。現在高校生の僕の眼前には永遠と錯誤してしまうほどの大きく膨張してゆく未来が横たわっているものだから、だらしない考えだとわかっていてもそういった考えに帰結してしまう。

安藤薬局を通過したくらいで、古くから営業している寂びれた玩具屋が見えてきた。店舗入り口の上部には「坊チャン嬢チャンの店・おもちゃのたけいち」と紺色のゴシック体で表示されている。―

坊チャン嬢チャン―、というフォントが昭和的レトロを演出する。

その文字の隣には真っ黒に薄汚れた巨大ウルトラマン人形と、同じく真っ黒に薄汚れたクマちゃん人形が展示されていて、お客を出迎えてくれる。おそらく、坊チャンにはウルトラマン人形で寄せていき、嬢チャンにはクマちゃん人形で寄せていくという販売戦略なのだろうけれども、兎に角、排気ガスのせいなのか、長年の埃などの集積なのかわからないが、真っ黒けっけで薄汚いのである。

小汚いウルトラマンに坊チャンは憧れないだろうし、嬢ちゃんは小汚いクマちゃんを抱きしめられないと思う。「とりあえず、店主の方、いったん掃除しよか!」と思うわけなんだけれども、頑固店主のポリシーなのか一斉清掃は決行されない。

これはおそらく三和商店街で買い物をする誰しもが、一度は思ったことがある商店街あるあるだ。そんな玩具屋たけいちには、僕とオカンとの思い出がたくさん詰まっている。

「マコトな? 俺さ、あの玩具屋見たらオカンとの思い出がさ、ふっと蘇ってくんねん」

「きよぴー?」

「小学校低学年の時な、ちょっとしたミニ四駆ブームあったやん? たけいちの中に、ミニ四駆用のサーキットあって」

「改造ミニ四駆持ち寄ってレースすんねやろ? 懐かしいなぁ」

「そうそう。小学生が放課後集まってな。モーター変えたり、ボディを軽量化したりして、スピード追求しよるねん。友達らがさ、漏れなく持ってたからな。俺だってさすがに欲しなるやん。TAMIYAのミニ四駆」

「そら欲しなるわ」

「俺が欲しかったんは、スーパーエンペラーっていう車種やってん」

「スーパーエンペラーいうたら、アニメの主人公が使う一番カッコええミニ四駆やん」

「そうそう。ほんでさ、商店街にオカンと買いもんに来てさ。たけいちの前を通りがかった時にさ、ここしかないって思って、俺、オカンに頼みこんでんやん? ミニ四駆買ってと。皆、持ってるから俺も欲しいねん、と」

「おう。ほな、なんて?」

「即答で、あかん、って。当時はさ、俺、めちゃめちゃ腹立ってん。ミニ四駆の価格の相場って、子どもながらなんとなくわかるやん? ミニ四駆ってそんな高いもんじゃないって。それやのになんで買うてくれへんねんって。今から思うとさ、母子家庭で食べるんも苦労してたくらいで、ミニ四駆なんて買う金も厳しかったんやろうから反省するんやけどな」

「そうかぁ」

「でもな、マコト。まだ話に続きがあるねん。オカン、俺の事、可哀想って思ったんやろ。二週間後な、家で俺が留守番しててさ。オカンが仕事から帰ってきたんや。ほな、プレゼントやって言うて、ミニ四駆買ってきてくれてん!」

※本記事は、2019年11月刊行の書籍『尼崎ストロベリー』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。