CIA記念館にあるお宝と推理ゲーム

記念館は個人の収集物を寄付されたもの、外国の諜報部から取り上げたもの、そしてCIA自身の資産からなっている。最も興味をひくのがENIGMA機で、ドイツのエンジニアにより発明され、ドイツ軍が暗号化されたメッセージを送るのに第二次世界大戦時のナチスにより使用された。

ポーランド、フランス、イギリスの暗号専門家がやがてENIGMAのコードを解読していったが、その偉業は2014年アカデミー賞受賞作品となった映画《イミテーション・ゲーム》に描かれている。現物はほとんど残っておらず、希少なENIGMA機の個人保有分の1台がクリスティーでオークションにかけられ、50万ドル以上の金額で落札された。私は幸運なことに、現物の2台を見ることができた。一つはCIA本部で、もう一つはロンドンの戦争博物館でだ。

CIA記念館の展示物でお気に入りは口紅ガンである。別名キスオブデスという。小さな口径の口紅ケースに見せかけた単発式ピストルである。女スパイが切羽詰まった時、ハンドバッグに手を伸ばし、口紅のチューブを外し、至近距離からターゲットを殺すのだ。

記念館の端にはスパイ活動に必要な知識の勉強を2倍にするような展示物がある。それは高度からスパイカメラにより日中に撮影されたワシントンDCの大きな白黒写真である。その写真は長さ20フィート、幅5フィートの大きさで床に埋め込まれている。不注意な訪問者ならその上を歩いて、気づくこともないだろう。

面白い遊びとして、ゲストに向かい、写真を指し示してその写真が撮影された正確な日と時間がわかるか尋ねるのである。

普通の最初の返答は「全く思いもよらないです」だ。

そしてそのゲストは考え始める。その写真では木々の葉っぱが落ちてしまっているので、10月から3月の間に時間枠を区切ることができる。駐車場は空っぽなので、更に週末か祝日に絞ることが可能だ。その時点であなたは60日まで絞っており、カレンダーの85パーセントは消去している。なかなかのスタートである。

次に建築日時を知っている特定の建物を探すことになる。ケネディセンターが写真に写っているので、これは1970年以降に撮影されたことを確認できる、などなどだ。もっと専門的な分析官ならワシントンDCにおける建築許可の記録にアクセスして、ブロックごとに調べ上げ、特定のビルの有無によって特定の年まで絞り込むことができる。

時間に関しては、見込まれる日を絞り込んだ後は、その日の方位角により、ワシントンのモニュメントの影が世界最大の太陽時計になってくれる。あなたのゲストはこの記念館を去る頃には、国立の地球空間的諜報機関で想像上の分析作業を終えたような気分になっているだろう。

もちろん口紅ガンや白黒写真は現代のスパイが所有しているようなデジタル化されしかも極小化された分光学的技術に比べ幼稚なものだ。しかしここで急所を見失ってしまいがちだ。CIA記念館の展示に見られる創意はそれ自身感動を与えるものであるが、冷戦下のロマンスと命を賭けた真剣さをも呼び起こすのだ。

興味深いことではあるが、昔の学校の道具やスパイ技術が突如新しさを取り戻したのだ。洗練されたハッキングの道具やフラッシュドライブの進歩により最も進んだデジタルシステムでさえも攻撃を受けやすくなっている。

諜報エージェント達は侵入を恐れ、非デジタルの道具へと回帰している。ロシアのKGBの後継機関であるFSB諜報サービスは近年、内部報告とメモ作成のためタイプライターを注文した。タイプライターはハッキングされず、デジタル証跡も残さない。スパイ技術のブラッシュパス(すれ違いざま手渡す)、デッドドロップ(特定の場所に隠して渡す)、ワンタイムパッド(暗号表の使用)などがスパイやケースオフィサーの間で復活している。

※本記事は、2020年12月刊行の書籍『AFTERMATH』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。