そして禅は、忘れていたものを思い出した。それは、あのバスケットに賭けていた時の熱い気持ちだった。

「俺は何をやっていたんだ?」

そう自分に問いかけた。それは、バスケットをやっていた時も同じだった。

シュートが入らないと“なぜ入らないのか?”と考え続け、納得するまでシュートを打ち続ける……その練習量は、当時の誰も真似をする事は出来なかった。それが才能と重なり、禅はスター選手に昇り詰めたのだ。

“努力は報われる!”

それだけを信じて、ただがむしゃらに働いた。そして元々人が良く、人当たりがいい禅に営業は向いていた。

その熱意は相手の企業に伝わった。そして下請けの仕事を増やしていった。

「社長! 新しい取引先が決まりました」
「そうですか!」

率先して頑張っている禅を見て、従業員の士気も上がっていった。それに伴うように、業績も上がっていった。それから半年もすると、従業員の数は倍になり、業績は父親から引き継いだ時の十倍になっていた。

禅は幸せだった。仕事に生きがいを見つけ、最高に充実していた。

その数日後、それを見届けるように父親は息を引き取った。禅は、父親の寿命を縮めたのは自分のせいだと自分を責めた。

※本記事は、2020年10月刊行の書籍『アリになれないキリギリス』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。