大丈夫。いつか春がやってくるから
第一志望の大学で充実した日々を送る沢波俊樹。
サークルで出会った、一見クールでひときわ美人な春田恵美と、高校時代からの友人で気心の知れた木下和との間で揺れ動く心。
そんな彼に、恐ろしい病魔が迫っていた――。
青春のときめき、切なさ、葛藤、温かさを爽やかに描いた、感動の純愛小説を連載でお届けします。
春の出会い
邪気:90 代謝:80 正気:80
今日も挨拶こそたくさんしたけれど、どうにもうまく話を合わせることもできずに、最後の英語の授業を受けていた。まだウォーミングアップのような内容だから、先生の話をぼんやりと聞きながら、ただ背中を丸くして前を向いていた。
「なあ沢波。この授業、おもろなくない? なんか高校の英語とそう変わらんやん。思わん?」隣に座っていた内村和也(うちむらかずや)がさもつまらなそうに机に片肘をついて呟いた。僕は、二まわりほどごつい体躯の男になんのモーションもなく呼ばれ、あからさまに驚いて振り向いた。彼は身じろぎもせず、斜めに目だけ向けてきた。
彼とは入学式の後に簡単な挨拶を交わした記憶はあるが、それ以後話をする機会はなかったから、僕にとってはいまだはじめましてだ。
(へーこいつもう名前覚えてくれているんだ)
何よりもそれに感心したが、僕は肝心の彼の名前は思い出せない。
「そうやにゃぁ。おもろうないにゃぁ」
気まずさを隠すように返事をした。人付き合いは苦手でも人に興味がないわけではない。けれども名前を覚えるのは苦手なのかな、と自分の不得手に今気が付いた。
すると内村は何か面白いものを見つけたように、大きな顔にくっついている小さな目を大きく開いた。
「え? 沢波、どこ出身なん?」
大きく僕に向き直り体半分近づけて、興奮を抑えるかのように小声で訊いてきた。授業はおもしろくないが、邪魔しないように気は遣っているようだ。
「高知やけど」
素直にそう答えたとき、教壇の教師がじろりとこちらを見た。それに気づいた僕は、ばつが悪そうにすぐ頭を下げた。
同時に気づいた様子の内村は「僕は知りません」というような顔をして視線を逸らしている。じーっと見ていると目だけ動かしてこちらを見てニヤニヤと笑った。
以来僕は内村組に籍を置くことになった。なんだかすごく単純な理由だ。彼の名前は別の男子に呼ばれているのを聞いて思い出した。もちろん内村にそんなことは話せず、最初から知っていたかのように振舞った。
★邪気指数、新陳代謝指数、正気指数
漢方の立場で見た、主人公沢波俊樹の体調を示します。本来、漢方にはこんな指数はありませんが、これに近いことをもっと細かく考えながら対処します。これらの変化は人によって異なります。
●邪気指数
体の中に溜まった不要なもの(邪気)の量を示す指数です。邪気は誰の体の中にもあります。食事の質や偏り、嗜好品、食べる時間などで変化しやすく、新陳代謝指数が下がり排出が悪くなることでも上昇します。邪気がかゆみの元にもなることがあります。ここでは50~150を正常範囲とします。150を超えると体調を崩しやすくなります。ただし、正気指数が高い方は、邪気指数が高くなっても体調を維持することができます。
●新陳代謝指数
体の中の、良い物(正気)、悪い物(邪気)がどれだけスムーズに動いているかを示す指数です。通常人が生きていく中で、良い物(新)を取り入れて、いらないもの(陳)を排出しています。それがスムーズに動いていること(代謝)が大切です。飲食の消化吸収、大小便での排出、血流、発汗などトータルの指数とします。運動不足やストレスなどで低下します。ここでは70~100を正常範囲とします。新陳代謝指数が下がると邪気指数が上がりやすくなり、下がっているときには正気指数も下がっていることが多くなります。
●正気指
数
体の元気(エネルギー≒正気)の指数です。バランスの良い飲食で満たされ、ほど良い休息をとることで作られます。逆にストレスや過労で低下します。正気が少なくなると、体のだるさや意欲の低下がみられ、免疫をコントロールする力が弱り、かゆみを抑えられなくなり、症状が悪化します。ここでは70~100を正常範囲とします。正気指数が高いと新陳代謝指数は上がりやすく、邪気指数が少々高くても生活に支障はありません。